仏壇前の提灯

日本でのお葬式のはじまり~日本らしいお葬式の起源とは?


人が死んだら弔うのは当たり前、葬式の方法やマナーについての知識や理解は大人の常識、と多くの人は考えます。しかし、時代が変われば時代背景や制度、常識も変わります。日本で「日本らしいお葬式」と考えられている方法は、実は太古からずっと行われているわけではなく、今のようなスタイルに落ち着くまでには、いろいろと紆余曲折がありました。

ですから、死者を弔う行為はいつからか、今のような葬式になったのはいつからか、といった問い方によって答えは変わってきます。

現代日本の葬式の大半を占める仏式について、仏教伝来以前とそれ以後の歴史に分けてみてみましょう。


数珠を持ちながら合掌

1.死者を弔う行為はいつからか 古代~仏教伝来以前

世界最古のお葬式といえば、約6万年前にネアンデルタール人が行っていたものというのが定説です。イラク北部のシャニダール洞窟からは、骨と一緒に、その洞窟付近には生息しない花の花粉が発見されており、遺体に花が供えられた痕跡だと考えられています。

亡くなった人を弔う気持ち、食用動物の遺体などとは分けて葬るという行為の始まりは、人類史の中でも人間が人間らしい生活を始める大きな転機です。時代や場所、方法の違いはあれど、どの文化でも死者を悼み、弔うことを通して人間社会を形成してきました。

日本で確認されている最古の埋葬は、縄文時代の屈葬に遡ります。屈葬とは、遺体を体育座りのように折り曲げた体勢で葬る方法です。伸展葬と呼ばれる、体を伸ばしたままで葬るスタイルは、特権階級のみに行われていたようです。

死者の身体には大きな石を乗せたり、抱かせていることから、死者の霊が生き返って浮遊することを恐れていたと考えられ、ここに信仰の芽を見て取ることができます。
ただし、現在のような宗教的な葬送の行為が行われていたかは不明です。

弥生時代になると、農耕民として定住生活を営むスタイルが広まり、それまで移動先で葬っていた遺体を、1つの場所に葬るようになりました。これが日本のお墓の起源と言われており、有力者の古墳が有名で、石の大きさや造りの立派さが権力の象徴だと考えられています。このころになると、庶民の間にも伸展葬が普及します。ただ、お墓は豪族などの特権階級に限られ、庶民が墓に埋葬されるということはありませんでした。

今のようなスタイルとはかけ離れていますが、弔う行為の共通性に注目して、ここを日本のお葬式の原点とみることもできます。


2.今のような葬式になったのはいつからか

仏教の伝来とともに火葬が日本に伝わり、葬式の歴史にも大きな変化が訪れます。ただ、大陸から伝わった方法がそのまますぐに採用されたわけではなく、仏教以前の日本の古来の信仰という土台の上で、新旧の方法が葛藤したり、融合したりしながら、時間をかけて変化していきます。

埋葬は身分の高い人の特権だったため、庶民用の墓地はなく、河原や藪など一定の場所が定められ、そこに埋葬するよう定められていました。また、そのような文化が定着する以前は河原や藪に放置し、動物や微生物の力による分解に任せる風葬、水葬という方法がとられることもありました。

平安末期から鎌倉時代にかけて、民衆にも仏教が浸透するようになり、従来の方法に異を唱えた仏教僧たちによって、民衆にも埋葬やお墓、葬式の習慣が少しずつ広まり、定着し始めます。そして、鎌倉仏教の死生観とともに、民衆の間にも受容されていったのです。

また、仏教とともに火葬も日本に伝わりましたが、遺体を完全に高温焼却する火葬技術や場の確保が難しく、とくに京の都の中での火葬は忌み嫌われたため、火葬がいきなり土葬にとってかわるということはありませんでした。

戦国の世から江戸時代にかけての殺伐とした混乱の中で、安寧を求める思想が広まり、ますます仏教は浸透していきます。室町時代にはキリスト教が伝来しましたが、島原の乱以後、禁教令が出され仏教が国教化したこと、江戸期にかけて武家の家制度や檀家制度による祖先崇拝が確立されていったこと等も、今の葬式スタイルにつながる大きな転機となりました。

地域や宗派による差はあるものの、江戸期には現在の葬式につながるような風習が行われています。親しい人が集まって死者とともに一夜を過ごす通夜、北枕、魔除けの刃物、遺体の清め方、死に装束などです。埋葬は土葬が一般的でした。

火葬が一般的になり始めるのは明治以降の話です。近世~近代にかけて政治、社会、教育、医療など、様々な西洋近代思想や制度が流入し、土葬も西洋的な衛生の観念や疫病防止の観点、土葬の土地の確保の問題などから、政策として火葬が推奨されていきます。ただし、ここでも市街地での火葬の臭気や健康被害、人々の死生観の葛藤など様々な問題があったため、火葬禁止令の公布や廃止などの紆余曲折を経ています。地域によっては、昭和初期ごろまで土葬が行われていました。

こう考えてみると、日本のお葬式の起源をはっきり明言することは難しいところです。が、現在でも地域や宗派による違いはあるものの、日本らしいと現代の私たちが感じるお葬式は、日本固有の土台の上に、大陸文化や西洋近代思想や制度、各時代の政府の方針などを取り込みながら、段階的に発展してきたことがわかります。そして、その根底には人類に共通する死者を悼む心が、文化を超えて横たわっています。